空洞化する地方都市を再生するため
十和田市は現代アートを起爆剤としたまちづくりを進めている。
戦後に興隆をみせた町に、新たな息吹きが吹き込まれた。
地方都市では、80年代後半から郊外への大型店舗の進出が相次ぎ、町の中心街の空洞化が進んでしまった。

商店街としての魅力が薄れてお客さんの足が遠のき、中小の商店がシャッターを閉めていった。

そして2000年以降になると、その大型店ですら不採算店舗の閉店といった撤退を余儀なくされるケースが出てきた。

現在、このようにしてまさにゴーストタウンと化した地方都市は、日本中のいたるところにある。

どのようにして町を、市を活性化し、再生していくか。

都市再生の重要性に気づいた地方は、歴史的遺産となる建造物や町の持つ個性を見直し、新たな「まちづくり」を進めるプロジェクトを探っていった。

そしていま、ようやく実を結びつつあるプロジェクトがいくつか見られるようになった。

今回取り上げる十和田市は、まさにそうした「まちづくり」の成功例のひとつといっていいだろう。

十和田市の市街地の中心には、松と桜並木の続く1.1kmにわたる「官庁街通り」がある。

碁盤の目のように整然と区画された町並みの中央を走る幅36mの道には、165本の松と156本の桜が4列の並木をつくり、花壇にはサルビアやパンジーなどの花が四季に応じて彩りを添えている。

歩道の両側には奥入瀬渓流、稲生川をイメージした水の流れや、さまざまな馬のオブジェが配置されており、市民の散策の場として親しまれてきた。

通称「駒街道」とも呼ばれる官公庁通り。春には桜、冬はイルミネーションでライトアップされる。
十和田市観光商工部観光推進課
TEL:0176-23-5111
そもそも十和田市は、江戸時代末期に開拓された地だ。荒漠とした地を美田で潤う里に変えようと、新渡戸傳(にとべつとう/盛岡藩家老・新渡戸稲造の祖父)によって都市計画がなされた、近代都市計画のルーツともいえる。

人為的に区画された都市でありながら、その内外に豊かな自然を保持しているのはその設計思想によるものだ。

大戦中には馬の産地として旧陸軍軍馬補充部が設置されていた。戦後、この補充部の用地が開放されて官公庁用地として整備され、道の両側には国・県・市の官庁が軒を連ねている。

しかし、事務所の統廃合や合同庁舎新設による転居により、空地も目立つようになっていた。

市では官庁街通りを中核にしたまちづくりのため、02年(平成14年度)より基礎調査をはじめ、05年(17年度)に「野外芸術文化ゾーン」の基本計画をまとめた。官庁街通りをひとつの美術館に見立て、歩道や市立病院など周辺施設にアート作品を恒久的に展示するという計画はここから始まる。

中心にはその象徴となるアートセンターを設け、市内全域を用いた街中展覧会を実施するという構想も発表された。

エントランスには韓国のチェ・ジョンファによる「フラワー・ホース」が展示されており、町の景観の一部となっている
十和田市現代美術館
所在地:青森県十和田市西二番町10-9
開館時間:展示室9:00~17:00(入館は16:30まで) カフェ・休憩スペース9:00~17:30
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)
観覧料:500円(高校生以下は無料)
TEL:0176-20-1127
この未来に向けた新しいまちづくりプロジェクトの一環として「Arts Towada」計画が発足し、その中核施設となる十和田市現代美術館が08年にオープンした。

美術館は展示室が家のように分散しており、それらをガラスの廊下でつなげているのが特徴的だ。町を美術館に見立てるというコンセプトを踏襲するように、敷地内に「アートのための家」が独立した建物として分散している。

「Arts Towada」計画は現在も進行中で、10年を目標にオノ・ヨーコをはじめとする国内外の21人のアーティストが、都市や自然、そこに生きる人々との対話のなかから生み出した22のアート作品が展示される。 

東北初となる現代美術館の存在は多くのメディアでも取り上げられ、観光客を巻き込み、そこに住む人々との交流アートイベントが頻繁に行われている。
みちのく温泉
所在地:青森県十和田市東三番町21-5
営業時間:6:00~22:00
休館日:年中無休(年末年始休み)
料金:大人350円(小学生以下140円)
TEL:0176-22-3087
アートを鑑賞してから温泉に入ろうと、現代美術館から足を伸ばしてみた。

近くには奥州街道(陸羽街道)をはさんで反対側に新渡戸記念館があり、その裏手に「みちのく温泉」という温泉銭湯がある。

泉質は塩化物泉で、町なかの銭湯として地元でも人気だ。

美術館から徒歩でも15分ほどと近く、料金が安くて営業時間が長いのもうれしい。さらに、三沢方面へとクルマを走らせる。

十和田観光電鉄線(県道10号線)を東へ走ること約30分。
三沢駅へと到着した。

駅の南側には22万坪の広大な敷地に古牧温泉渋沢公園がある。

ここは、日本の資本主義の礎を築いた渋沢栄一、その孫の渋沢敬三に師事した杉本行雄が興した一大リゾート地だ。杉本は渋沢家の執事として仕えるが、戦後の財閥解体で渋沢牧場の整理を命じられ、青森に移住する。

71年にこの地にこの地で温泉を掘り当て、「古い牧場の温泉」という意味を込めて古牧温泉と命名した。

杉本はこの温泉のほかにも十和田湖畔や奥入瀬渓流周辺を観光地として整備したことでも知られる「東北の観光王」でもあった。

この敷地には移転復元された東京・三田の旧渋沢邸や、親交の深かった岡本太郎にちなんで記念公園が併設されている。その温泉はいまでも堪能することができる。

露天風呂「浮き湯」。庭園に囲まれ、風呂に入ったまま自然を堪能できる特別な開放感がある
古牧温泉 青森屋
所在地:青森県三沢市古間木山56
TEL:0176-51-2121
かつて古牧グランドホテルと呼ばれていた施設は、日本を代表する温泉として、「行ってみたい観光地」で10年連続で1位に輝くほどの人気を博していた。

だが、時代の流れを受けて04年に経営が破たん。外資に買収された。

08年に「古牧温泉 青森屋」と改名され、現在は内装も新たに営業を続けている。名物は露天風呂「浮湯」。

滝が望める広大な池に張り出すように作られた露天風呂は、まさに池の中に浮かんでいるようだ。

水面には周辺の木々の色が映り込み、夜には月や星が映し出される。

青森の十和田、三沢という町にも新しい時代の流れが吹き込み、風景は移り変わってゆく。だが、この地が持っている“時代の重力”のような歴史の重みは、変わることなく存在し続けていくのだろう。

十和田市現代美術館には裏手に10台分の無料駐車スペースがある。また、美術館北側の市営駐車場は約50台駐車可能で美術館利用者に限り無料となっている。
「古牧温泉青森屋」は三沢駅前で、八戸自動車道経由、第2みちのく自動車道終点より3分とアクセスがいい。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。ブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.bectac.com/
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